フランスに住んでいて、何が一番好きですかと聞かれたら、私は迷わず「蚤の市」と答えます。
観光名所でも、美食でもなく、週末のあの混沌とした市場の空気が、私には何より馴染むのです。
クリニャンクールの記憶
パリの北の端、クリニャンクールの蚤の市は、世界でも有数の規模だと言われます。
迷路のように入り組んだ通路に、何百もの露店が並ぶ。アンティーク家具、古い銀器、剥がれかけた絵画、誰かが手放した手紙の束。
その中に、占いに関する道具が紛れていることがあります。
注意深く歩かないと見つかりません。けれど、見つける目を持ち始めると、ある日急に、世界が違って見えるようになります。
古いタロットデッキ
一番よく見つかるのは、もちろんタロットデッキです。
箱がボロボロになっていて、カードが何枚か欠けているものも多い。それでも、使い込まれたデッキには独特の手触りがあります。角が丸く、表面が少し艶やかで、誰かの手の油が染み込んでいる。
新品のデッキにはない、その「使われた時間」の重みが好きです。
一度、マルセイユタロットの古い版を見つけたことがあります。色合いが今出回っているものとは少し違っていて、版画的な手触りが残っていました。値段は安かった。たぶん売っていた人も、これがマルセイユタロットだとは知らなかったのでしょう。
占星術の道具たち
占星術の道具は、もう少し見つかりにくい。
天球儀、星座盤、十九世紀の占星術書。プロヴァンスの古道具市で、皮の表紙が剥がれかけた占星術書を見つけたことがありました。中はフランス語の古い字体で書かれていて、私には半分も読めませんでした。それでも、ページをめくるだけで、誰かがこの本に向き合っていた時間が伝わってきました。
値段を聞くと、店主は本をパラパラめくって「うーん、十ユーロでいいかな」と笑いました。
魔女の小物たち
一番好きなのは、魔女と呼ばれた人々が使っていたであろう、小さな小物たちです。
ハーブを刻むための小さなナイフ。乾燥させたハーブが入ったままの古い瓶。お守りとして使われていたであろう、銀の小さなペンダント。
それらは「魔女の道具」とは書かれて売られていません。ただの古道具として並んでいる。けれど、組み合わせを見ていると、誰かの暮らしの中で大切に使われていたものだと分かります。
匂いと手触り
蚤の市の何が一番好きかと聞かれたら、私は「匂い」と答えるかもしれません。
古い紙の匂い、革の匂い、誰かの家にあった時間の匂い。写真では絶対に伝わらない、その場所だけの空気。
手で触れた瞬間に分かることもあります。「あ、これは大切に使われていた」。理屈ではなくて、皮膚で受け取る情報です。
もし機会があれば
もしフランスを訪れる機会があったら、ぜひ蚤の市に足を運んでみてください。
お目当ての品を決めて行く必要はありません。ただ歩いて、目に留まったものを手に取って、店主と少し話してみる。それだけで、十分豊かな時間になります。
あなたの手の中で、ほんの少しだけ温かくなる何か。
それが見つかったら、たぶんそれは、あなたを呼んでいたものです。
